No.089 / 2023.01.14

TOPICS / goods イギリス伝統の指輪、シグネットリング

世界最古の指輪?

イギリス紳士が好んで身に着けることで有名な「シグネットリング」。
シグネットリングとはベゼルと呼ばれる(最もでっぱている部分)にイニシャルや紋章が刻まれているリングの事を指し、古くはそれをハンコのように押すことで認印のような役割を持っていました。
歴史がかなり古いことから、ときに最古の指輪とも呼ばれ、その起源は紀元前3500年ごろのメソポタミア文明が有力な説。
その頃はリングではなく表面を削って模様を付けた筒状のフォルムをしていたが、古代エジプト時代にはリング状になっており、すでに印鑑としての役割を果たしていたようです。

オリエントからイギリスへ

古来から広い地域で使用されていたシグネットリング。
その中でも近代、現代においても文化として根強く残っているのがイギリスです。
シグネットリング繁栄のきっかけとなったのが、14世紀のイングランド国王エドワード2世とも言われ、
その理由は「すべての公式文書には、王の印章リングによる印がなければならない」と定めたことから。
証明としての役割を公式に認められたことでシグネットリングは、王族はもちろん貴族にも必要不可欠なアイテムに。

中世では印鑑・認印の実用品として使用されていましたが、近代に近づくにつれ、その役割は薄れ「富・地位・階級」などを象徴するアイコンとして身に着けられるように変化していきます。
もともとは王族や貴族が使用していたという歴史のゆえに、高貴で品を感じさせるリングは、新国王のチャールズ3世をはじめとするイギリスの紳士が好んで身に着けることで有名です。

イギリスの伝統に基づくと左手の小指に着けることが一般的になりますが、現代のシグネットリングはトラディショナルでありながらも、
着ける指は小指だけに定めず、男性だけでなく女性にも多く身に着けられていることから、ファッションアイテムのひとつとしてカジュアルになりつつあります。


 

 

ホールマークから読み解くシグネットリング

英国紳士をはじめ、多くの人々を魅了するシグネットリング。
かつては王族や貴族にとって欠かせない存在の指輪であったという、歴史の深さと漂わせる品格が魅力的ですが、リングの内側に押された「ホールマーク」と呼ばれる刻印もまた、イギリスのシグネットリングの特徴であり魅力でもあります。
ホールマークとは製造工房や素材、年代などを示すことで、品質を証明する目印のような役割をもった刻印。
イギリスにおいては13世紀ごろの中世から始まり、本格的にホールマーク制度が確立されたのは16世紀ごろ。
定められたホールマークは基本的に「工房・素材・純度・検査機関・年代」がひと目でわかるように、
決められたロゴやアルファベット、数字を用いて表示しています。
現代のイギリスでもほとんど変わらずにホールマークが定められているため、銀や金を素材とした貴金属(一部除く)は品質の保証と証明のために、経年による薄れ以外は基本的に残されていることになります。
ここまで正確に情報が残されているリングは世界的に見てもかなり珍しく、指輪本体の価値だけでなく歴史的な価値や、ヴィンテージやアンティークが好きな人にとっては、ロマンや希少性を感じさせる付加価値を与えてくれます。

ホールマークをマークとして略させているため、読み解くには表が必要です。
方法としてはネットや本を用いて読み解く方法がありますが、この度、イギリスにてコレクターでありホールマークの研究を行っている

「Makers’ Marks & Hallmarks on British & Irish Silver」

の協力を得て、このページでも一部ホールマークの表を掲載をしています。

Assay Office(公的検査機関)

イギリスは歴史的に貴族社会であり文化であることから、銀製品が古くから生活に根付いている銀産業が盛んな国です。
そこで13世紀ごろから始まったのが品質を証明するホールマーク制度。
定められた貴金属は品質を証明するために、当然ながら検査する公的な機関がイギリス各所に設けられています。
通称「アッセイオフィス」と呼ばれる検査機関は、検査が済んで認められた物のみに定められたマークを刻印。
主な検査機関は上記の図の通りで、
「バーミンガム・グラスゴー・チェスター・ロンドン・ダブリン・ニューカッスル・エディンバラ・シェフィールド・エクスター・ヨーク」です。
現在はほとんどの検査機関が閉鎖され、残されたのは「ロンドン・バーミンガム・エディンバラ・シェフィールド」の4か所のみ。
そして、その横に押されるのが素材と純度を表しており、銀の場合は一般的にライオンパサントと呼ばれるのライオンの刻印(925の場合)
金の場合は王冠、もしくは純度を示す数字(9金の場合は9・375など)が刻印されています。
最後に押されるのが年代(デイトレター)です。
年代はアルファベットとフォントの組み合わせで識別をしていますが、アッセイオフィスによって組み合わせが異なり少し複雑なため、表を必要とします。
以下に金のシグネットリングに押されていることが多い3都市の年代別ホールマーク表をまとめております。

Date Letter(年代識別マーク)

Chester

Chester 1901-1925

この表は「Makers' Marks & Hallmarks on British & Irish Silver」の協力を得てまとめているため、
掲載されているマークには銀製を示すライオンの刻印がありますが、金の場合はここが冠や金の純度になります。

9金のシグネットリングを例にとりますと参考写真の通り「9・375」となり、375は375/1000と純度を表していることに。
その次に押されているアルファベットがデイトレターです。
デイトレターを含むホールマークはかなり古くから活用されていたため、1年ごとの年代を識別するために最大25文字のアルファベットにフォントを組み合わせることで永久的に区別ができる仕組みです。
チェスターは既に閉鎖されているため、この表では1962年までの識別が可能。
上記に載っているリングのアッセイオフィスとデイトレターを確認すると、2つともチェスターで1901年から1925年までに検査を受けたことがわかります。
ちなみに、1837~1901年はヴィクトリア朝時代、1901~1910年はエドワード7世のエドワード朝時代ですので、
2つのリングは100年以上に製造されたことが、このホールマークによって正確に証明されている極めて希少なリングです。
刻印が経年によって消えていない限りは、このように正確に年代を識別ができるホールマークは当時だけでなく、現在でも価値を証明する有効なマークとも言えます。

Birmingham

Birmingham 1900-1924

シグネットリングには各地で検査を受けた刻印がありますが、バーミンガムを示すアンカーマークの刻印を押したリングはアンティークでも多く見つかり、
1773年から現在でも検査を続ける重要なアッセイオフィスです。
最大25年の単位でホールマークは定められるため、2024年までのマークは既に決まっています。


参考写真のリングは少し変わった特徴を持っており、裏側には「Addie,Oct1st,17」と刻まれていることから、1917年10月1日に贈られたリングなのかもしれません。
このリングは記念日の刻印以外にも、ホールマークを確認することでバーミンガムにて1915年に検査されたことがわかります。
約100年以上前のウィンザー朝時代のイギリスにて、何か重要な意味を持ったリングであったことがわかる、このリングもまた貴重なアイテムと言えます。
ホールマークをはじめとする内側に刻まれた刻印は、ロマンを感じさせるだけでなく歴史をひも解くヒントとなり、様々な情報を得ることができる重要なマークです。

London


 

 

金だけではないシグネットリング

主な石の意味

シグネットリングは金や銀の他にも古来から石を用いられることが多く、イギリスにおいても伝統的に使用されています。
主な石は「オニキス・カーネリアン・ブラッドストーン・ルビー・ラピスラズリ」です。
その他にも時代によって様々な宝石が使用されることがありますが、今回はよく使用される5つの石についてまとめています。

オニキス:「魔除けの石」
オニキスは、邪気を払う強力なパワーをを持っており、持ち主を守ってくれる。

カーネリアン:「幸運を運ぶ石」
勇気と行動力を与えてくれるカーネリアンは心や気の迷いを振り払い、希望を叶えるための力を与えてくれる。

ブラッドストーン:「活力を高める石」
赤のまだらな模様がブラッド=血を連想させ、活気を高めることで前向きな意欲と勇気を与えてくれる。

ルビー:「勝利の石」
力と情熱を沸き立たせ、行動力を高めてくれる。
危険が迫ると色が変わるとも言われており、古くは戦士のお守りにも。

ラピスラズリ:「聖なる石」
ラピスラズリは最古のパワーストーンとも言われており、
邪気を退けてくれる他に、知恵や知性、洞察力を授けてくれる。

これらの石はシグネットリングだけでなく、様々なアクセサリーに古くから使用されていた石です。
全ての石が持ち主を守ってくれる「守護石」の役割を担っており、戦地に向かうお守りとして身に着けることも。
金無垢だけでなく、誕生石やその時の自分に必要な力をもった石を選べるのもシグネットリングの魅力です。


 

 

王室も認める「ロイヤルゴールド」

イギリスは銀製品が有名ですが、古くから王室や貴族では金製品も愛用されており、少し変わった文化を持っています。
それが、今は亡きエリザベス女王やダイアナ妃も好んでいた「ロイヤルゴールド」と呼ばれる9金無垢です。
一般的に金は純度が高いほど高価となりますが、イギリスの伝統的な9金(375/1000)は王室も愛用することから、その名がついています。
アメリカでは14金であったり、日本だと18金がスタンダードですが、純度が低くとも価値をもったイギリスの9金は世界的に見ても珍しい文化です。
もちろん、18金などを使用したシグネットリングも存在しますが、圧倒的に9金が多く残っていることや、
イギリス製のヴィンテージウォッチにも使用されていることから、いかに親しまれてきた素材かが伝わってきます。

金は24金(純金)ではない限り、割金と言って他の金属との合金をします。
その割金によって金の色が変化し、ローズゴールドやイエローゴールド、ホワイトゴールドとなります。
シグネットリングは基本的にローズゴールドとイエローゴールドに分かれ、画像右側のリングがローズゴールド、左側がイエローゴールドです。
割金に銅の比率が高いと赤みが増し、ローズゴールドとなります。
日本ではピンクゴールドと呼ばれることが多く近い配合ですが、西洋では古くからローズゴールドとして親しまれ、パラジウムが含まれているのが特徴。
もともとは貴族や紳士に好まれてきたシグネットリングにローズゴールドが多く使用されることからわかる通り、
伝統的なローズゴールドは日本のピンクゴールドのような女性向の印象とは異なり、男女問わず身に着けられる素材です。
イエローゴールドの割金はシルバーやパラジウムの比率が高くなり、黄色の輝きが増します。

9金の場合は割金が多いため、使用していると変色がしやすい素材です。
酸化の原因となる汗をかいた際は、優しく乾拭きをすることや温泉、お風呂、海水浴などでは身に着けないことで、ある程度の変色を防げます。
日頃のお手入れとして、金の場合は中性洗剤で優しく洗うことで汚れやくすみが取り除けることが多いです。
石付きの場合は、それぞれ異なるため石に従ってお手入れすることがおすすめです。


 

 

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