No.076 / 2022.10.24

TOPICS / goods バーナード・リーチの民藝精神を担う後継者と工房

LEACH POTTERY

大正15年に柳宗悦や陶芸家の濱田庄司らによって提唱された「民藝運動」
芸術品だけでなく、暮らしの中にある手仕事による日用品の美しさ、いわゆる用の美を見出し「民藝」として広めた活動。
その活動を推進した一人が、イギリス人の陶芸家バーナード・リーチでした。
バーナード・リーチは柳宗悦と共に手仕事と日用品の美しさを日本各地に広め、
陶芸家でもあるリーチは布志名焼、小鹿田焼、袖師焼など数々の窯で技術を指導。
濱田庄司とは民藝運動を通して志をともにし、
1920年には共に渡英し、セント・アイヴスにて日本式の登り窯を備えた「LEACH POTTERY」を開きます。
リーチ家に伝わる伝統的な陶芸の技術と精神はここから始まり、息子たちへ、そして孫たちへと引き継がれていくことになります。
今回は最初の後継者であり長男のデヴィッド・リーチとデヴィッドが始めた窯のアイテムにフォーカスし紹介します。



 

 

DAVID LEACH

DAVID LEACH/デヴィッド・リーチ(1911-2005)
1911年 陶芸家バーナード・リーチの長男として東京で生まれる。
1930年 セントアイヴスのリーチ工房でリーチの弟子として参加
1941年 応召
1946年 父バーナード・リーチと共に再び製作を始める。
1970年 以降、息子のジェレミィ・リーチと共に陶芸活動を行い、精力的に個展を開いていた。
2005年 亡くなる。

父のバーナードが日本に広め、作品に多くみられるのがスリップウェアと呼ばれる陶器の種類。
もちろん、デヴィッドも美しいスリップウェアの技法を受け継ぎ、作品を残しますが、
力を注いだのは、陶器のような多孔質なものではなく、硬く丈夫な不可侵性をもつストーンウェア(炻器)の製作でした。
デザインの印象も父とは少し異なり、バーナードは大胆で厚いガラスを用いた温かみを感じられるものが多いですが、
デイヴィッドの陶器は一般的に滑らかで厚みを抑えた、繊細を感じられるものが多いようです。
基礎の製法や技法は父から受け継ぎつつ、良いアクセントで個性が感じられる作品。
今回、紹介するコーヒータイムにぴったりなカップ&ソーサーとスモールボールからも、その魅力が伝わってきます。
ぽってりとしたフォルムをしたストーンウェアらしいずっしりとした重みがありつつも、デヴィッドらしい繊細なデザイン。
父バーナードの面影を感じさせる作りながら、少しモダンな佇まいをもつ美しい作品です。


 

 

LOWERDOWN

1955年にデヴィッド・リーチが、父バーナードの元を離れ、新たにデヴォン州のボベイ・トレーシーで始めた窯がロワーダウン工房。
そこにデヴィッドは2005年に亡くなるまで留まったそうです。
デヴィッドは長男ジョン、次男ジェレミー、三男サイモンをもうけ、それぞれ陶芸の道に進みますが
1970年頃からは次男のジェレミーがロワーダウン工房に加わり、のちに継承されます。
ちなみに、ジェレミーは自由人であり、ロクロの技術は父親譲りで確かなものらしく、話がうまく説得力のある雄弁さは祖父のバーナードそっくりなよう。

そんなリーチ家の後継者たちによって引き継がれていったロワーダウン工房。
ストーンウェア(炻器)の作品が多く、その中でもジキタリスを描いたデザインがよく見られ、
ナチュラルな雰囲気と温かみのある模様は、どこか懐かしさを感じさせます。
これらの陶器が日本で作られたものではなく、遠いはるか向こうのイギリスで作られていたと思うと不思議な感覚ですが、
これこそバーナードから引き継がれた、日本の民藝精神なようにも思えます。

今回は朝食にぴったりなロワーダウン工房のストーンウェアが集まっています。
ロワーダウンで焼かれたものは全てに、Lと+を組み合わせた小さな窯印が押されており、デザインだけでなく使い心地も考えられた陶器です。
どれも日本の陶芸に通ずるデザインですが、イギリスはコーヒーや紅茶文化なので湯呑ではなくマグカップであったりと、
文化により作られる器が少し異なりますが、
これらの陶器は暮らしが欧米化、欧州化した現代でこそマッチしたデザインです。


 

 

バーナード・リーチとリーチ工房の100年

バーナード・リーチから始まり、第二世代の息子、第三世代の孫まで続く、リーチ家の陶芸。
100年以上の長い歴史とともに、ときに時代や環境に翻弄されながら受け継がれた陶芸の神髄と民藝の精神は
今、第三世代から第四世代に引き継がれようとしています。
少しでも興味が湧いた方や、歴史を詳しく知りたい方には、このような本も用意しています。
読んで、使って、陶芸一家リーチ家の理解を深めてみてはいかがでしょうか。